反応だって、なくて。

 ............絶対にいなくなるなよ。約束、守るっつってただろ?

 そんなことを心の中でつぶやく。

 そして、氷空の頬をはなした。

 優しく、今度は氷空の手を握る。

 手も、ひんやりしていて、あのころみたいなあたたかさはない。

 ......それでも。



「大丈夫だ。おまえは......氷空は、ひとりじゃない」



 そう言って、氷空の手をやさしく包み込む。

 温度の低い、ひんやりしたこの手が、あたたかくなるように。

 さっき言ったあの言葉は、氷空に言ったのか、氷空を失うことが怖い俺に向けて言ったのか......わからなかった。

 そのまま俺は、眠ってしまった。


               


 ふと目が覚める。

 体を起こすと、アイボリーのカーテンが風になびくのが見えた。



「.....?」



 ハッと我に返る。

 .....そうか、ここは、氷空の病室だ。

 窓に目をやれば、白銀の三日月が浮かんでいる。

 雲一つない、きれいな空だった。

 濃紺の絵の具を溶かしたかのように、空が濃紺に染まっていく。

 濃紺に染まった空を見てから、俺は立ち上がり、握ったままだった手をそっと振りほどいた———。



「.....っ...」



 振りほどこうとして、俺は何とか踏みとどまる。

 一度は振りほどいたが、もう離せない。

 氷空が、反射的に手を握ってきたから。

 昏睡状態だと目は閉じられたままで、よくても手足を反射的に動かすくらいの反応しか示さない。

 そういうものだって言ったのは俺なのに。

 だから、こんくらいどうしようもないことなのに。

 だから、また振りほどけばいいことなのに。

 でも、もう振りほどけない。

 胸が苦しくなる。

 ただ、反射的に反応しただけなのに、それがどうしようもなく、安心した。

 生きているんだと、まだ笑顔を見せてくれるんだと。

 ただそのことに、すごく安心して。

 俺は、俺の体温で少し暖かくなった氷空の手を離せなくなってしまう。

 ............それでいい。

 俺はもう二度と、この手を離さない。

 だから、氷空も———、

 もう二度とあきらめないと、誓ってくれ。もう一度、笑顔を見せてくれると誓ってくれ。

 そう祈りながら、俺は再び椅子に座りなおした。