リイカも振り絞るようにそう言った。

 

「そうだなぁ......、忘れちまうよな。強すぎて、何にも傷つくことはないんだって、そう思っちまうよな」

「あいつは、そんな(やわ)じゃない。だから、きっと......」



 理事長と校長がそう言う。

 俺たちはもう、何も言えなかった。苦しくて、言葉に詰まった。
 
 そのまま待っていると、面会時間は過ぎていたが、看護師が特別に待たせてくれた。

 このまま帰るとか、無理。このままだったらと思うと、気が気でない。

 数時間して、手術用のランプがフッと消えた。

 看護士が出てくる。

 

「......手術は成功しました」



 その一言に、ワッと来夢たちが色めき立つ。

 笑顔を浮かべたり、涙ぐんでいたり、女たちはなぜかハイタッチをした後に手を取り合って涙ぐんでいる。

 ......気持ちはわかるが......。



「よかったあ......!」

「よかった......え?」

「どうした?」

「泣いてない?」

「泣いてねえよ。............え? お前も泣いてね?」

「泣......いてないけど」

「はあ............すっごく、よかった......
 いや、よくはないけれど生きていてくれてるんだよね、よかった......」



 ...........ちょっと喜びすぎやしないだろうか。

 まさか、こいつら.....。

 おいおいおい.....。

 ある可能性が頭に浮かんできて、その可能性をかき消した。

 反応はそれぞれだけれど、喜んでいた俺たちに向かって、看護師がそうっと口を開く。



「成功したのですが......まだ、目覚めません」

「え......?」

「いわゆる植物状態とは言い切れないのかもしれませんが、まだ機能している脳幹が非常に弱っており......今は眠った状態です」



 植物状態。

 その言葉に、俺たちは息を止めた。

 植物状態というのは、脳死状態とは違う。

 脳死状態というのは、脳幹が完全に機能しなくなっている状態のことだ。生き返る見込みはないらしい。外国で生き返った報告があるみたいだ。そういうこともあるんだろう。

 だが植物状態というのは、生き返る見込みがあり、まだ脳幹の少数が機能している状態だ。

 植物状態になった人の大半は、約六か月以内に死亡するといわれている。残りの大半は、2~5年、生存するらしい。

 昏睡状態だと目は閉じられたまま、よくても手足を反射的に動かすくらいの反応しか示さないらしく、こうした昏睡の状態は長くても2~5週間ほどしか続かない。

 意識を回復する場合は、通常数日以内に回復する、と言われていた。