【side星】




「早く輸血の用意を!」

「ストレッチャーはいります!」

「こちらへ!」



 一気に騒がしくなる病院。

 でももう、その音は雑音にしか聞こえなかった。

 ............雑音だと、思いたかった。

 なぜなら、そこにいるのは説明するまでもない。氷空(そら)だったからだ。

 

「ここからは立ち入り禁止です!」

「お待ちくださいっ!」



 看護師に呼び止められ、足を止めた。

 俺たちは、手術室のすぐそこにあるベンチに座らせられた。

 看護師と医者と、氷空を乗せたストレッチャーが手術室に入っていく。

 そして手術室のランプがともった。白色で【手術中】という文字が赤い光に浮きあがる。

 全員、口を開かない。そのため、沈黙が俺たちを包み込む。
 
 そこへ、理事長と校長がやってきた。

 校長があせったように叫ぶ。



「ッ、氷空が手術室はいってったって本当か⁉」

「......」



 誰もその質問には答えられなかった。だが、その沈黙だけで分かってしまったのか、二人は狼狽したような表情を浮かべた。



「まさか、本当に......」

「そう、か......氷空は......」



 そうつぶやき、俺たちを見た校長と理事長。

 

「大丈夫か......?」

「......何言ってるんですか? オレたちは、別にひどい怪我もなくて......」

「違う。ひどい顔、してるだろ」

「そんなんじゃ、氷空に心配されちまうぞ」



 時円(じん)が答えて、その返事がさえぎられる。

 ひどい顔......?

 何のことだ。血に濡れてるわけでもないのだが......。



「............」

「......で、休んだらどうだ?」

「ケガしてる氷空に心配されんのもむかつくだろ?」



 息ぴったりにそう言ってくる理事長と校長。

 なんなんだよ、一体......。

 なんでそんな普通にしていられるのかが分からない。



「ま、俺らからすれば、こっちが𠮟りたいところなんだけどな」

「......」



 俺たちは、やっぱり暗い顔をして何も返せない。

 小さく呻きを漏らして、沈黙を破ったやつがいた。

 誰だったか。

 たしか、氷空と仲良くしてた女だ。河永遠(ことわ)、という苗字だった気がする。

 こいつに興味はないが。



「まさか、氷空がこんなことになるとか、思ってなかった......。すっごく、強かったんだもん、氷空は。でも、強すぎて、氷空も......同じだってこと、わかんなかった..................」

「......なんで......氷空は、あたしたちと、.....一緒にいるって、勝手に一人で死なないって、約束したのに......『守る』って、言ったじゃんっ......!!」