つれていかないでくれ。

 ここに来る前、笑ってたじゃないか。

 まだ、みんなと一緒にいたい、って、言ってたじゃないか。

 また、みんなが許してくれるなら、みんなの笑う顔を、ずっと、そばで見ていたいって、言ってたじゃないか。

 でも、そう笑ってたけど、俺は。

 氷空はそう言ってたけど、俺は。

 俺は、何もいらないから、お前の、笑顔が見たかった。

 悲しい笑顔とか、苦しそうに作った笑顔とか、作り笑いとかじゃない。

 そんな顔を見たいんじゃない。

 一体何が氷空に、そんな顔をさせてんのかと思ったんだよ。

 でも、今ならわかる。そんな顔をさせてたのは、きっと。

 自分自身だったんだな。

 あの時、親友たちを守れなかったって。兄ちゃんを守れなかった、って。

 そう、言ってたよな。きっと、それだったんだ。

 守れなかった。死なせてしまった。

 そんなお前の、後悔とか、苦しみとか、悲しさとか、情けなさとか。

 それが、お前にそんな顔をさせてたんだな。

 俺は、お前の笑顔が見れれば、それでよかった。

 でも、キミが、一緒にいたいって、生きていてほしいって、笑うから。

 苦しそうな顔をして、悲しそうな顔をして、そう笑ったから。

 俺は、俺は、俺はっ。

 キミの、悲しそうな笑顔じゃなくて———

 心からの、笑顔が見たかった。

 頼む、頼むよ。

 もう何もいらない。

 だから、氷空を奪わないでくれ。連れて行かないでくれ。

 

「あいつの......あいつが、願ったことを、信じたいと思ったことを、あきらめさせないでくれよっ......」



 一緒にいたい、みんなの笑顔が見たい、って。そう言ってただろ?

 なあ、なんで氷空なんだ。

 氷空から、なんで大切なものを。守りたかったものを。奪っていくんだよ。

 

「......そらっ............」




 無我夢中で。

 そんな言葉を発する。

 俺の声は、届くことなく空に消えていく。

 降ってくる、慰めるような雨にかき消されていく。

 まるで、空が泣いているようだった。

 こんなの不公平だと。おかしいんじゃないか、と。こんな運命は......こんな結末は信じないと。

 そう、叫んでいるようだった。

 叫んでいるように、雨が強くなる。

 まるで、その様子は。

 まるで、その雨は。

 氷空が、悲しみに涙を流しているようだった。