【side星】



 急激に、血が体から抜けていくのが分かった。

 酸素が回らない。うまく呼吸ができず、浅くなっていく。

 体がぐらついて、落ちる、と思った。

 そして、俺が。俺だけが、落ちるハズだった。

 ———なのに。



「そ、ら......?」



 俺は確かに落ちたハズだった。

 でも、なぜかそこに。俺と一緒に、氷空(そら)がいて。

 信じられなかった。

 なんでここにいるんだという疑問も出てこないほど、動揺していた。

 息ができなかった。呼吸ができなかった。

 頭が真っ白になる。



「氷空! 氷空、しっかり......っ」



 分かっている。わかっている。

 こんなことを言っても、聞こえていないこと。もう、分かっている。

 氷空の体を軽く揺さぶる。揺さぶらないほうがいい、ということまで頭が回らず、ただ必死だった。

 目を開けてくれないことが、返事をしてくれないことが、怖くなった。

 

「......なぁ、......言っただろ」



 約束してくれただろ。約束しただろ。

 約束をした時の氷空の言葉が、耳に残っている。

 『......死なないでね。“約束”......だよ............約束する。いなくならないって』

 そう小さな声で、少しだけ不安そうにささやいた氷空に、俺は——。

 『......ああ』

 そう言葉を返した。

 約束をした。死なないって、いなくならないって、約束をした。

 なのに、なぜ。

 なぜ、氷空は、目を開けてくれない。

 反応してくれない。俺を、見てくれない。

 約束、しただろ。

 守るんじゃなかったのかよ。

 最初に約束し始めたのはお前だろ?

 ......いや、俺だったかもしれないが。約束してくれただろ?

 言葉が詰まる。のどが締め付けられる。

 来夢(らいむ)たちの、あいつらの、声が聞こえる。

 遠くから、サイレンの音が聞こえた。

 ぽたぽた、ぽたぽた、と。

 雨が降る。

 優しく、慰めるかのように、俺たちを湿らしていく。

 いなくならないでくれ。死なないでくれ。

 そう、約束しただろ?

 

「氷空、絶対いなくなるなよ。お前がいなくなったら、どうすればいいんだよ」



 声を振り絞る。

 なあ、頼む。

 頼むよ。

 なんだって差し出すから。何にもいらないから。