この星に生まれた、何よりも誰よりも。

 時が止まったようだった。



「ああああああああああああああああ」


 自分がどんな感情かさえもわからない。

 悲しいのか、苦しいのか、つらいのか、怒りたいのか。

 分からないけれど、私は確かに、心を持っていた。感情を持っていた。

 分からないけれど、叫んでいた。

 ひんやりとした夜の空気。吹き付けてくるのは、最近冷たくなってきた風。夜のにおいがする。ちらり、と空に(ほし)が見え隠れする。ぽたぽたと、空から涙が降ってくる。天気雨だ、と気づいた。ぞっとするほど静かな空間。下から、大きな音や叫び声が聞こえてくる。みんなの声も聞こえてくる。みんなの気配がする。

 よみがえる。あの時の記憶が、すべて鮮明に。まるで今、その場にいたかのように。

 何もできなかった自分。私とかかわってしまったため、3人は死んでいってしまった。目の前で飛び散った血。血液の匂い。うつろになった何も映っていない瞳。絶命した姿。悲鳴が聞こえる。銃がうたれる音、何かが突き刺さる音が聞こえる。無感情だった、やってしまったやつらの瞳。その瞳には何も映っていなかった。絶望と闇だけが映っていた光のない瞳。ただ理由だけを探して叫んでいた自分。一体、それで何をつかんだんだろう。今まであった暖かさ。ぬくもり。さっきまで見せていてくれた笑顔。見せてくれた表情(かお)。そのすべてが、目の前で消えていく。失われていく。血に染まる。真っ赤に映る。真紅の華が咲く。

 ああ、と思う。どこかで、声が聞こえた。



『それでいいの?』

 どこかで聞いたことがある声だった。

 それでいいのかって? このまま同じことを繰り返してもいいのかだって?

 ダメに決まってる。

 だって、私が強くなったのは、もう二度とあんなことが起こらないようにするためなんだから。そのために、私は強くなったんだから。

 もう、失わなくていいように。
 まだ、生きて、笑ってくれるように。
 泣いてくれるように、怒ってくれるように。
 生きててよかったって、思ってくれるように。
 幸せだって、感じてくれるように。
 自分の目指す方向へ、いけるように。
 夢を、やりたいことを、ただひたすらに追いかけられるように。