「んん~? 組長様、私もやったほうがいいですか?」
「《マジシャン》は待機の方向で」
「御意っ」
《マジシャン》が楽しげに答える。
明らかに余裕がある様子に少し歯を食いしばる。
......なんで。
なんで、いつもこうなってしまうんだろう。
なんで、いつも戦いになってるのかな。
立っていたほうが勝ち、たっていられなかったほうが負け。
一体、そんなことを何回繰り返して、何回見てきただろう。
自分が考えていることに、はあ、とため息をついた。
......知ってるよ。
きっともう、何年も前から。
きっと、8年前から知ってる。
8年前。
あの日から、ずっとそうだった。
いつもいつも毎日毎日、戦い戦い戦い。
立ってるか、たっていないか、それが勝敗のつき方。
無残に命を奪う側だということは、もう知ってた。
ただ、あらがってしまったら死んでしまいそうな気がして。
それでも、何とか小さく反抗して。
でも、美弥が、疾風が、お兄ちゃんがいなくなって、無残に命を奪う側にいるのはもう嫌だ、って抜け出した。
だけど、きっともう、知ってた。
まだまだ、おわらないってことを。
この悪夢は、私が向き合って決着がつけられるまで終わらないって、とっくのとうに知ってた。
だから、この決着がつくまで、何回も何回もこんなことが起きちゃうんだと思う。
都合のいい言い訳かもしれないけど、本当にそう思った。
「───......だから、」
もう、こんなことはしたくないんだ───。
私は、きっと前を向いた。
振り返るな、迷うな、立ち止まるな。
少しぶっきらぼうな口調で、私は自分自身に叫ぶ。
そんなことしてたら、いつまでもこの悪夢は続く。
また、0じゃなくて1から、スタート地点に戻ってしまうんだ‼
私は自分にありったけの思いを叫んで、息を飲み込む。
そうだよ。
スタート地点に戻ったら、美弥と疾風とお兄ちゃんがいなくなった時から、もう一度悪夢を見ることになっちゃうんだよ。
それだけは、ダメだから。
それだけじゃない。
私は、まだみんなと一緒にいて、みんなの笑った顔を見たいから、だから......っ。
私は皆の笑顔を思い浮かべて、ぐっと屋上の地面をけった。
ふわりと宙に浮く感覚。
逃げてるだけで、近づけないんだったら......
跳ぶだけ───!
宙に向かって、跳んだ。
ふわりと宙に浮き上げる。
私はそのまま、《リーパァー》に向かって、足をけりだした。

