そう言ってやりたいのに、声が出ない。

 なんでだろ、なんで、声が出ないの。

 邪魔ものじゃないって、決してそんなのじゃなかったって、言いたいのに、言葉が出てこない。

 なんで、かな。

 今。自分が、すっごく情けない。

 邪魔ものじゃないって言いたいのに、

 役に立ってないことないって言いたいのに、

 ずっと、一緒にいてくれてたって言いたいのに、

 昔のことじゃないって言いたいのに、

 言葉が出てこないの。

 訂正してもらいたいのに、訂正させてやりたいのに。

 もし、訂正させられなかったら、お兄ちゃんは私のことをどう思うだろう。

 訂正させられなかったら、あいつらは絶対、またお兄ちゃんのことをやけになって侮辱するよね。

 でも、もし、訂正させられたら、どう思うかな。

 ......ダメだ、やっぱり。

 言葉が出てこない。

 いろんな思いがごちゃ混ぜになって、もう何も言葉が出てこなくなる。



「ヒストリー。ロング・アゴー。わかんねーのか? おめーの兄は、もう昔の人なんだ......‼」

「......っ」



 どくん、と嫌な音がする。

 むかし......の、ひと......。

 目の前が真っ暗になる。

 私にとっては、お兄ちゃんは昔なんかじゃなくて、今の人で、生きていてほしかった人。

 笑っててほしかった人。



「おまえはちがくても......ッ! あいつにとっては、いやな奴だろ! お前は!」



 だけど、お兄ちゃんにとって、私って、何?

 嫌な奴?

 お兄ちゃんにとって、私はどうでもいい奴?

 むかし、の......ひと?



「......っ、わ、わた......」



 私は、お兄ちゃんに嫌われてる......?

 こいつらの言葉なんて、どうせはったり。

 ウソ、なのに。

 こいつが言ってきた言葉はいつだって、噓だらけだったのに、なんで今はこんなにこの言葉を聞いて絶望しているんだろう。

 手足が震える。

 唇が、小さく震えて、何かを言おうと動く。

 でも、声は出てこない。

 何を言えばいいんだろう。

 ふ、と力が緩んで。

 私から作ってしまった隙に、私は茫然とした。

 それでも、何もできない。

 きらり、と光に反射して光る何かが見えた。

 あぶない。

 そう分かってるのに、何もできない。

 動けない。