私はいつも、誰かを不幸にしてしまうような人間で。

 傷つけないように、傷つかないように、って距離をとって、きっとみんなも、自分のことも守ってたんだ。

 だけど君が、手を伸ばしてもいいって教えてくれた。

 君は、私に光をくれた。

 だから今度は、私が君を救う番。
 

     ◇  ◆  ◇

「ねぇ! お願い事何にした?」



 今日は七夕。

 施設で、七夕祭りをやってたんだ。

 施設と同じくらいの高さの笹を、古風な小さい御殿みたいなのに埋め込んで、願い事の書いた紙をつるすの。

 美弥(みや)がそう言ってきて、私は顎に手を当てて考えてるそぶりをした。

 

「んー......なんだろ。何がいいかなぁ」

「もしかしてまだ書いてなかった⁉ まだつるしてないの⁉」



 美弥が驚いたように言ってきて、こっちがびっくりしながらこくんとうなずく。

 だって、願い事って、何書けばいいかわからなくなることってない?

 私のお願い、今すでにかなってるもんなぁ......。

 

「まじかー」

「そうだけど、美弥は?」

「え?」

「なんて書いたの?」

「............」



 急に黙りこくってしまった美弥。

 ......はっはーん?

 私はにやにやとしながら、美弥を見た。

 言えないってことは、言いづらい願い事なんだ?

 

「言えないの?」

「っそ、んなことないけど......」



 もごもごと口ごもってしまった美弥を見ながら、私は何を願おうか考えていた。

 できるなら、ずっとこの幸せが......

 あ、これにしよう。

 私は群青色の短冊を抑えて、さらさらと鉛筆で文字を書き始めた。

 名前は書かなくていいんだって。

 でも、イニシャルは書かなきゃダメみたい。

 イニシャルはー、S...っと。

 私は短冊を書き上げて、笹につるしてもらった。

 まだ口ごもってる美弥のもとに駆け寄り、「それで?」と聞く。



「............。............ないしょ」

「えぇー......」

氷空(そら)はっ?」



 あせったように、ごまかすように美弥が聞いてきて、え?と目を丸くする。



「わ、私?」

「そうだよ! あたしだけ聞いといてー!」
 


 うっ。

 まさか聞かれるとは思っておらず、言葉が詰まる。

 私は少しせき込んで、落ち着いてから言った。



「............ひみつ!」

「なんでー!」

「美弥が言ってくれたらいうけど」

「............やっぱいい」



 じとーっと見てきた美弥に、笑い返して私は言った。



「言わないけど、願い事がかなうといいね! これからさきも、ずっと!」

「うん!」