なんで笑ってるの。

 なんで、平気でいられるの。

 7年前から心の底でくすぶっていた小さな怒りが、静かに燃え上がる。

 なんで、美弥を、疾風を、お兄ちゃんを殺したの‼



「おうおうおう、怒ってるな~?」

「..................星。私、みんなと笑いあえるように、生きるから、約束は、守るから」



 星にだけ。
 星にだけ、聞こえるように言う。



「私、行っちゃうかもしれない」



 そしたら。

 もし私が、ダメな方向にいってしまったら、いってしまう前に。



「その時は、全力で止めてね?」



 え、と星が私を見る。

 私も、星のほうを見る。

 全力で、止めてよ。

 止めてくれて、かまわないから。

 だから、お願い。

 あきれても、怒っても、馬鹿にしても、かまわないから。

 だから、私は、星に微笑んだ。

 ゆれる氷空色の髪。

 ここに、戻ってくるなんて思ってなかった。

 みんなの前からいなくなることで、解決させるつもりだった。

 もう、それで終わらせるつもりだった。

 でも、それじゃ終わらなかったんだ。

 そうだよね。

 終わらせていいはずがない。



「《悪夢(ナイトメア)》、本気か?」

「《ナイトメア》って呼ばないで‼」



 私は、《ナイトメア》じゃないから。

 私は、“氷空”だから。

 もう、何もできなかった私じゃないから。

 『おまえ、なんも変わってねぇなあ...........待ってろよ、お前の幸せぶち壊してやるから』

 そう、いつか......あの日、風山(かざやま)が言ったけど。

 変わってなんかないよ。

 私は、もう失ったからって何かをあきらめる人間じゃないよ。

 あきらめないことの大切さを、みんなが教えてくれた。

 みんなが、私を探しに来てくれた。

 みんなが、笑いかけてくれた。

 私はもう、あの時の私じゃない。

 振るわれてくる技の数々を、かわす。

 ちがう。
 
 ちがう。

 私は、もう、誰かを苦しめるような人じゃない。