「無理すんなよ」



 そんな声が聞こえて、はじかれるように顔を上げる。

 わ、たしのこと......信じて、期待してくれてるってこと......?

 本当かどうかなんてわからないけれど、無性にうれしくなった。

 

「......もし、お前が危ない目にあってたら、お前が助けを求めたら、いつ、どこにいても助けに行くから」



 だからだ丈夫だ、と星はそうささやいた。

 それだけで、ドキリ、と胸が高鳴る。

 いつ、どこでも、助けに行くから。

 たったそれだけなのに、胸に響いて。

 私は気づいたら、星の小指にそっと指を絡ませた。



「......死なないでね。“約束”......だよ............約束する。いなくならないって」

「......ああ」



 星はただそう一言。

 そっと、私の小指を握り返して、約束してくれた。

 『ずーっと、わたしたちは一緒だよね?』

 『当たり前だよ?』

 何言ってるの?とでも言いたげに首をかしげるお兄ちゃん。

 『ほんとに?』

 『もちろん!』

 お兄ちゃんはそう言って、無邪気に笑って。

 『何があっても、約束するよ』

 そう、小指をつなぎあって、約束した。

 家族なんて、お兄ちゃんしかいなかった。

 離れたら、いなくなったら。

 そう考えるだけで、息ができなくなったのかのように苦しくて。

 だから、そう約束した。

 私は、約束、破っちゃったなぁ.....。

 「華やかな恋」
 
 「約束を守って」

 「天国」

 確か、オオデマリの花言葉はそれだったはず。

 「約束を守って」......って、あの頃の私たちの願いみたい。

 今思えば、「天国」だって、あの悪夢の結末みたい。

 悪夢みたいだけど、現実だった。

 ..........約束を破ったのはお兄ちゃんじゃない。

 私は胸の中で唱えて、静かに目をつぶる。

 あれ以来、誰とも約束してないなぁ......。

 きっと、これがあの悪夢から初めての約束。

 今度こそ、約束、守りたいな。

 私は死なないよ......。

 星も、......死なないでね。

 ......このことが解決したら、会いに行っていい?

 そっとささやいた私に、星は消えてしまいそうな声で、ああ、とうなずいた。

 私は、そう強く願ってから、小指をはなした。