「そのあと、誰かの足音がして、それが時雨(しぐれ)氷雨(ひさめ)だった」



 私がつづった私の一部の過去の物語を、みんなが静かに聞いている。

 そう、時雨と氷雨と出会ったのは、あのときだった。

 空腹と疲労に倒れていたところを、助けてくれたのが時雨と氷雨だった。

 私の仲間。友達。

 そして、命の恩人。

 なんて、こんな話をしたからか、昔の光景がよみがえってくる。

 

「..................」



 やっぱり、みんなは優しすぎる。

 もう、誰も......いなくなってほしくないなぁ......。

 黙って、何も言わない皆に、私は軽く笑いながら言った。



「もー、そんなに暗くならないで? 私は大丈夫だし」



 暗くなってほしかったわけじゃない。

 みんなに、暗くなってほしかったわけじゃない。



「なんで、わたしたちの前からいなくなったの?」

「それ、あたしも気になってた」

「9月26日、私に電話かかってきたでしょ? 相手は、《死神(リーパァ―)》で、ちょっとねー......」



 陽詩(ひなた)とりいがそう聞いてきて、それに答えた。

 そっか、言ってなかったっけ......。

 私は9月26日のことを思い出した。

 〈奇打 心空。その名前で生活してるんだってな?〉

 〈——待ってろよ、お前の幸せぶち壊してやるから〉

 確かそう言われたんだっけ。

 風山(かざやま)にも同じこと言われて............。

 それで、つながってるって気づいたんだよね。

 それから、時雨と氷雨にメールを送って、それだけ。

 今思うと、申し訳ないことしたなぁ、ほんとに。

 

「何も言ってなくてごめんね」

「............やだ」

「えっ?」



 あやまると、拒絶の言葉が聞こえて、目が点になってしまうほど驚いた。

 私って......嫌われちゃったんだなあ............。

 それ覚悟でいなくなったつもりだけど、なんか苦しい。

 悲しくなってきて、自分がみじめに見え始めた。

 うっ............。

 しょげていると、ひきつった声が聞こえた。



「......っ、きらい」

「......」

氷空(そら)のそういうとこ、ほんとに、嫌い」

「......」



 きらいっ......。

 その一言が、私の心にクリティカル・ヒット!

 ガーン......ガーン......ガーン......。

 そんな音が、何回も何回も帰ってきて、私はうつむいた。