この星に生まれた、何よりも誰よりも。

 ......なにその、理屈。

 気が付いた時には、ふっと笑ってしまっていて。



「やっぱり氷空じゃんーっ!」


 そう言って、美弥が笑って、そして、つられるように私も笑いながら、口にした。



「ひさしぶり。............やっぱかなわないな、美弥には」



 幹部No.1の私。

 きっと、そう答えてはいけなかった。

 でも、そういわずにはいられなかった。

 そこへ、疾風がやってきた。



「美弥、いったいどこで油売って———......っ」



 そう言って、疾風は目を見開いた。

 懐かしい、顔のメンツ。

 疾風じゃん。

 相変わらず、感情が顔に出ることはあんまりないんだね。

 美弥もそうだけど、疾風も全然変わってないなぁ。

 そう思いながら、私は美弥と、顔を見合わせた。



「氷空............っ?」

「疾風も全然変わってないね?」

「でっしょー?」



 悪夢(ナイトメア)

 それはワタシのコードネーム。

 気づかなかった、この歯車が壊れてきてしまうということ。

 いつのまにか、ぽろぽろぽろぽろ、と。

 『ワタシ』が、《ナイトメア》としての顔が、はがされてきてしまっていた。

 気づいて時には、もう。

         ◆

 雨が降っていた。

 強く強く、降ってくる涙が、地面に打ち付けられる。

 くすり、と笑う銃口。

 銃口が火を噴いて、



「............っ?」

「美弥っ!」

「そ、ら......?」



 美弥の足をかすった。

 つるり、と流れた血液。

 血がにじんだ。

 また、銃口がほほ笑んでいるのが見えて、私は叫んだ。



「美弥、にげて......っ!」



 お願い。

 まだ、いかないで。

 私は、私は......こんなことを、望んでたわけじゃ......っ!



「氷空............、たすけて......ッ!」



 ガチン!

 引き金がひかれる。

 銃口がほほ笑んだ。

 笑った、そのかけらは嬉しそうに生き生きと、飛んで行って、

 ———よけて!

 その声は、届かないまま、笑いのかけらにしみこんで。

 美弥。

 彼女の眉間を、貫いた。

 なんで?



「......ッ! ......ッ!」



 あれ、おかしい。

 苦しくて、のどがに熱いものがこみ上げる。

 ねえ、なんで?

 私があの時、喜んでしまったから?



「お前が、そいつらとバカやってるからだ」



 《死神(リーパァー)》が、座り込んだ私を冷たく見下ろしていた。

 空から降ってくる強い涙が、倒れこんだ美弥の光のない瞳に反射した。

 空から降ってくる涙が、美弥を濡らして、広がった赤色を薄く薄く、広げていった。