この星に生まれた、何よりも誰よりも。

 『なんでそんなに白い目で見てくるの⁉ もしかしなくても、氷空ってみやに冷たくない⁉』

 思い出す。

 美弥は、やっぱり美弥のままだ。

 

「......《ナイトメア》、知ってんの?」

「さぁ。誰その子。そんな子いるんだね」



 私は、ばれてしまわないように、必死に隠して、ごまかす。

 気づかなかった、自分でも。

 口調が、『ワタシ』じゃなくて『私』になっていたこと。

 そんな私を、夜の闇の中、《マジシャン》は見つめていた。

 ..................気づかなかった。

 それから、数日後。

 オオデマリの香り?

 ふわり、と何かの香りがした。

 よく身近にあった花だったから、何となくそれが、オオデマリだということが分かった。

 市役所に咲いていた、オオデマリの華。

 私は、変装をして、買い物に出かけていた。

 昼、太陽が放つ、きらりときらめく光の下を。

 黒い、一つにくくった髪の毛。

 青色の短パン。

 真っ白な長袖に、薄い水色のカーディガン。

 白色のハイソックス。

 スニーカーのつま先をトントンと、地面につけた。

 ちょうど土日。

 

「——氷空?」



 それはきっと、転換期。

 であってはいけない世界に暮らしている私たちが、もう一度再開した瞬間。

 闇の世界と光の世界。

 美弥の、声がした。

 

「氷空だよね?」

「............誰?」



 ふりかえる。

 ......美弥がいた。

 あの時より、半年分、成長した姿で。

 会わなかった半年分、大きくなった姿で。

 私と合ってない時間、伸びた髪。

 肩までつくくらいのセミロング。

 耳の上で、髪飾りがついているのが見えた。

 美弥は、私に引き下がらない。



「絶対、氷空だ!」

「いや、知らないですけど」

「冗談のつもりか怒るよ⁉」

「怒られる? ...なんで?」

「わかんないのか氷空は!」

「いや氷空じゃないって言ってんじゃないですか」

「氷空だって言ってるでしょだから氷空なのっ!」