この星に生まれた、何よりも誰よりも。

 音を立てて、床に落とされる、大金。

 ジャラジャラ、と音を騒がしくたてる。



「............ま、待ってください! その子は......ッ!」



 そのまま、男は私を肩に担いだまま、施設を出ていく。

 施設の、大人の人の声を聴かずに。

 『その子は、ずっと兄と一緒なんです。ダメですよ......売ったりなんてしません!』

 そう叫んだ、私にやさしくしてくれた施設の人の声が、まだ耳に残っていた。


          ◆


 ————“悪夢(ナイトメア)”。

 別名“鎮魂歌(レクイエム)”。

 それが、私の殺し屋としての、コードネームだった。

 黒色の長袖のパーカー。

 真っ赤な真紅のミニスカート。

 殺し屋としてのワタシの格好。

 あれから半年。

 ワタシは、8歳。

 夜の街を歩いていると、《死術者(マジシャン)》が、ワタシの肩を軽くたたいた。



「よっ、《ナイトメア》」

「どうしたの?」

「んー、気になることがあったんだよねぇー」

「気になること?」



 ワタシは、そう言って首をかしげた。

 気になること?

 《マジシャン》が?

 

「『氷空』って女の子を探してる子がいたんだよ」



 ずっとずっと、1年もの間、誰にも呼ばれなかった名前。

 ——氷空。
 
 幸原 氷空。

 それは、ワタシじゃなくて、私の名前だった。

 『氷空』を探している女の子。

 そんな簡単な問題の答えは、もうわかってた。

 分からなくなんてないに決まってる。

 だって、物珍しげな視線を向けられてても..................

 私にかまってくれたから......。

 ——美弥。

 なんで、私を探してたの?



「名前、なんていうの? その子」

「名前ぇ? なんだったけ......確か」



 考え込む、彼女。

 《マジシャン》は、少しの間考えてから、口を開いた。



「自分のこと、『みや』って呼んでたよ」