【side《死神》】




 逃げ出した《悪夢(ナイトメア)》は、(《リーパァー)》にとっては————。

 ..................《白昼夢(フェントム)》だった。



 ◆


 ふわりと漂ってくるのは、アザミとアジサイの香り。

 「独立」「報復」「厳格」。「冷淡」「冷酷」「無情」。

 赤色と黒で統一された部屋。

 その部屋の中に、数人の人たちがいた。

 《残酷(クォーティー)》、《悪魔(デーモン)》、《死霊(ゴースト)》。

 “絶死願(ぜつしがん)”の幹部と副組合長(ふくくみごうちょう)

 風山(かぜやま) 嵐真(らんま)楽死(らくし) 座冷(ざれい)水面(みなも) 底除(ていじ)械ノ字(かいのじ) 織都(しきと)

 “月殺(げっさつ)”の総長、副総長、幹部の男たち。

 皆が真紅の高級そうなソファに腰掛け、話し合っていた。

 

「うちの下っ端が氷空姫(そらひめ)と遭遇し、
 《ナイトメア》......すなわち奇打(きうち) 心空(ここら)に似ていたと写真を撮ってきています」



 そう言って、風山が写真を取り出し漆黒のテーブルに置いた。

 そこには、氷空色の髪をした、少女がたたずんでいた。

 それを見て、フッと口角を上げる。

 コンコン、と静かな空間にノックの音が響いた。



「はいれ、《死術者(マジシャン)》」



 命じると、するりと部屋の中に一人の少女が入ってきた。

 真紅の、まるで血のような髪色。

 血液の垂れた形が描かれている漆黒のシルクハット。

 同じ模様が描かれている漆黒の長いマント。

 軍服を着て、マントとシルクハットを身に着けた少女は、“絶死願”の幹部の一人。

 

「接触しました。..................大切な方々を、かばい、(ワタシ)に向かってきました」



 彼女からの知らせを聞いて、ますます口角が上がった男。

 やがて、男は高らかに笑い出した。

 

「そうか、っそうか............そうか、」



 来たばかりの知らせをかみしめるように、何度もつぶやく。

 笑いが収まらなかった。