それが、どんなに勇気がいることかわかってたんだ、私には。

 たった、それだけのことなのに胸が、あったかくなって。

 言葉も行動も、すごく難しくて、なのに。

 ————お兄ちゃんは、私にしてくれた............。



「............ありがとう」



 私がそう言うと、お兄ちゃんはきょとん。

 でも、やっぱり笑ってくれたんだ。

 あたたかい、笑顔で。

        ◇ ◆ ◇  


「私、あの時女の子叩いちゃって、お兄ちゃんが慰めてくれたんだよなぁ......」



 お兄ちゃんとまだ市役所にいたときのことを思い出し、苦笑する。

 たたくっていえば、私も琉宇のこと、叩いちゃったんだよね。

 自分のこと、たたこうとしただけなのに。
 
 やっぱり、琉宇もみんなも優しすぎるんだよ。

 私は、あふれてきそうになった涙を我慢して、小さく口を開けた。



「あー......」



 懐かしいなぁ............。

 でも、ごめん。

 嫌ってもいい。

 憎んでもいい。

 誤解しても、恨んでもいい。

 みんなが、誰かに笑いかけてくれれば............

 明るい笑顔を、誰かに向けてくれたら、それでいいんだ。

 だから、ごめん。

 もう、一緒には、いられない。