「でも、それは......なんで......?」



 私がいたから、星は感情を見せるようになった?

 私の問いに答えるように、りいは続ける。



「心空ちゃんがいたから、いてくれたから、星は......救われたの」



 救われた? ......私に?



「......ありがとう」



 優しくしみいる、その声。

 

「なんで、私にそれを言うの......? りいは、私になにもされてないでしょ......?」



 私の言葉に、りいはちょこっと眉を寄せて、少し考えこんで、うつむいて、そして顔を上げた。

 りいの顔には、笑顔が浮かんでいた。

 優しいほほえみだけど、一見、悲しそうなほほえみ。

 

「星は、あたしにとって、すべてだった。あたしの世界は、ぜんぶぜんぶ、星でできてたの」



 ねえ?

 りいは、すぐに醒めてしまいそうな夢の中にいるかのように、とっても優しい顔をしていった。



「あたしの初恋は、甘酸っぱいイチゴの味で、暗闇の中、絶対に覚めることのない夜の中を舞う、一筋の(ひかり)。この世の悲しみに立ち向かう、美しいのに、(はかな)い、(ほし)だったの」


 りいはそう告げて、立ち上がった。

 少し歩くと、振り向いて、



「また、一緒にお茶しようね」



 そう言った。

 りいがカフェを出ていく。

 ふと、机に視線を落とすと、スイーツが目に入った。

 りいのシフォンケーキの皿は、もう何も残ってなかった。

 甘酸っぱいイチゴをのぞけば。

 それなのに、私のさらにはまだパンケーキが残っていた。

 少し苦笑して、もう一度りいのシフォンケーキの乗っていたお皿を見やる。

 イチゴが、窓から入ってくる光に反射して、ちらちらと光っていた。

 『——この世の悲しみに立ち向かう、美しいのに、儚い、星だったの』

 この世の悲しみに立ち向かう、美しいのに、儚い、星みたいに。