「............っあー、」



 詰まっていた言葉を吐き出すように彼の口からこぼれた言葉。

 その言葉に、思わず目を見開いた。



「神楽、じゃなくて、(ひかり)だから」



 名前で、呼んで............ってこと......?



「ひ、ひかり......さん......?」

「敬語もなし」



 さっきから、何なのだろう、このやり取りは............。

 意味が分からず、私はただ言葉を繰り返す。



「............じゃあ、ひかり......」



 そういうと、彼がふっ、と笑った。

 初めて見た彼の笑顔に、ドキッと心臓が鳴る。

 これは............もう、見てたら目に毒............っ!

 みんなが、ああなっちゃうのが分かるような気がするよ...........。

 初めて神楽くんに会った時、もうコンサート会場みたいになってたことを思い出す。

 彼は、優しくほほ笑んで、



「——心空」



 私の名前——偽名だけど——を呼んだ。

 初めて、彼が名前を呼んでくれた日。

 呼んでくれたのに、その名前は、私の名前じゃない。

 私の、正体を隠すためにつけられた、偽名だった。