がたがたと一定のリズムで馬車が揺れる。
外を覗くと、遠くの村で売店が並んでおり、洗濯物を干したり、果物を売ったりして平民達がそれぞれの仕事に務めているのが見える。
「緊張…してるのか?」
「……」
「そりゃ緊張するよな。貴族の執事なんて。最悪首が飛ぶ」
「……」
「少なくとも、これから仕える主は、"あの人”のように酷い扱いはしないさ」
「……」
話しかけても返事はかえってこない。
寝てしまったのかと横目に顔をのぞき込むと、彼は私の顔を伺っていた。
少し、顔を強ばらせている。
「どうかしたか?」
「……」
やはり返事はかえってこない。
やはりこの子は、ノエルの執事には向いているのかいないのか……。
先日、父上が私に「これを執事としてノエルに仕えさせろ」と命じた。
この子がなぜ執事に雇われたのかはすぐに分かった。この子はノエルに似ている。
痩せた身体もそうだが……それよりも、目が似ているのだ。
あの人――父上の考えは、ノエルが人と話すことを嫌うから、話すことが出来ないこの子を――という事だろう。
この子が執事として使えることで、ノエルの人嫌いを少しでも良くするように……。
「………ノエルのことは思っているのか」
「……」
「あぁ、なんでもないよ…独り言だ」
この子がそばに居ることで、ノエルが良い方向に進むことを願おう。俺とシルヴィアのように――。