「ちょ、桃、大丈夫?」
「うん……なんとか」
「いや、鼻血出てんじゃん……」
鼻に手をやると指先にはたしかに血がついていた。
だけどわたしは狼狽えない。
「ああこれね、ちょっと出やすくなってるの」
わたしの言い方が悪かったのか、ほの空ちゃんが聡かったのか。
ぴーんときたような顔をしたあと、般若のように怖いカオをした。
「やっぱあんたをリンチした奴らにゃヤキ入れてわからせてやんないと……」
「だーいじょうぶ、大丈夫だって。わたしリンチなんてされてないし。それより早く行こ、遅刻になっちゃうよ」
黒いオーラを放つほの空ちゃんの背中を押す。
でもまあ、あの日から鼻血が出やすくなってしまったのは事実だ。
どこかの血管が傷ついてしまったのかもしれない。
もう少し続くようだったら病院に行こう、と。
それどころじゃないわたしは、もう後ろを振りかえらなかった。
「あはは、面白い子を見つけてきたね。愔俐」
「今のところ役に立ってないがな」
「弓道部はいつでもマネージャー募集してるんだけど」
「……うちもようやくの庶務なんでね。余所にやるつもりはしばらくない」
「あんまり執着すると嫌われちゃうよ、ほどほどにね」
「わかってる」



