まあ、食ってしまいたいくらいには。




そのあとの三栗くんの変わり身の早さといったらなかった。


ぱっといつもの笑みを浮かべて、わたしを引き起こして。


それから、ふむ、と考えるように見つめられるから。




「……なに」



警戒も警戒。


信頼していた仲間にナイフで後ろから刺されたような気持ちになっていたわたしは、ふたたび入口の近くで避難経路を確保していた。




「いや、愔俐さんの言うとおりだったなと思ってさ」

「あの人、なんか余計なこと言ったの」

「皮膚の薄いところがいちばん美味い、味見してみろ、って」

「ほんっとうに最悪。なんなのあの人」



もう遅いけど首を両手で隠すようにする。


さっき“味見”されたばかりのそこは、まだひりひりしていた。


それで、なにか。



「もっとわたしを食べたくなったとか?」

「その逆。一気に食欲が収まった」

「……収まった」


「そう、桃を食べたいという気持ちがなくなった」

「思ってたんだ」

「そりゃフォークですから」



最初から部屋に入れなきゃよかった。


三栗くんは続ける。




「愔俐さんに身を差し出すって言ったときはてっきり自暴自棄になったのかと思ったけど、どうやらそういうわけじゃないらしいな」