「……ごめんなさい。嫌な言い方した」
芽野くんが悪いわけじゃない。わかってる。
フォークがケーキを食べたくなるのは抗えない本能だし、きっとフォークはフォークなりの考え方があるんだろう。
「ありがとうね。看病してくれて」
わたしはにこりと笑顔をつくった。
芽野くんの制止を振り切りベッドから上半身を起こして、ちらりと部屋のドアを見やる。
「あ、やったー鍵付きだぁ」
わたしはひとり暮らしだったから、鍵のある部屋は新鮮だった。
とにかく、この部屋の中は安全だとわかっただけでも、よかった。
「ここの大浴場って広い?というか男女で分かれてるよね?わたし、お風呂は自分の好きな時間に入りたい派なんだよね」
突然しゃべりはじめたわたしに、芽野くんは困惑しているようだった。
ああ、とも、うん、とも取れない言葉が返ってくる。
「……今日はいろんなことがいっぱいあったから疲れちゃった。起きたばっかだけど、そろそろ寝ようかな」
暗に、一人にしてほしい、と伝える。
それを芽野くんは察してくれて、なにか言いたそうにしながらも立ちあがった。
「その、平気なのか……?」
出ていく直前、かけられた言葉にわたしは笑う。
「うん、へーきへーき!あはは」
芽野くんをベッドの上からお見送りする。
ぱたんと閉じられたドア。
一人になった部屋で、
「はは……へーきへーき……」
わたしは震える自分の体をぎゅっと抱きしめた。



