「それで、なぜそんな噂を?」
「何事も弱っている時が狙い目だ。お前が寄り添うふりをして甲斐田桃に接近するのは、想定内だった」
「俺が良い人だから?」
「そう、お前が良い人だからだ」
「耳が痛いね。でもまあ予定ではもう少し待つつもりだったんだけど」
そこでわたしはようやく口を挟んだ。
「待つって……機会なんて、いくらでもあったはずなのに」
弓道場でのときなんか、目と鼻の先だったはず。
フェンスがあったとはいえ、その気になればいくらでも手をかけられたはずだ。
「わからないかなぁ」
出来の悪い教え子を前にしたように。
敬郷先輩は柔らかく、こう言った。
「絶望はね、最上のスパイスなんだよ」



