『桃、まだフォークと一緒にいるのか』
「……うん。あのね、あの人たちは悪いひとたちじゃ」
『なんで』
言葉を遮った彼女の肩は震えていた。
怒りで、ふるふると震えていた。
『忘れたのか、お前。フォークに痛い目……遭わされたんだろ。まだ懲りてないのか?それとも、もうそんなことは忘れたっていうのか!?』
断片的に、だけど鮮烈に。
一瞬にしてよみがえる小さい頃の記憶。
「覚えてるよ」
忘れたことなんて一日もなかった。
「でも、わたしを襲ったのは生徒会の人たちじゃない」
『犯人の顔、思い出せないんだろ』
「……それは」
彼女の言うとおりだった。
夢に出てくる男の顔も、どうしても思い出せない。
きっと警察にきけば教えてもらえる。
当事者で、被害者のわたしなら。
だけど完全に思い出してしまうことも、怖かった。
「……あの人はまだ、きっと外には──」
そのときだった。
彼女の顔が、こわばったのは。



