「遅い」
「み゜ぃ"」
いきなり後ろから首に回された、誰かの腕。
容赦なくホールドされて、声帯の可動域を超えたような声が出た。
わたしの後ろを見た敬郷先輩が、ああ、と声をあげる。
「愔俐。お疲れ。ずいぶん忙しいらしいじゃないか」
「え、愔俐先輩!?これ後ろ愔俐先輩なんですか!?」
たしかにわたしも戻るのが遅かったけども!
それでも愔俐先輩が直々迎えに来るなんて、誰が想像した?
「悪かったな敬郷。邪魔した」
「そんなことないよ。差し入れも貰えたし、桃ちゃんと話せたし」
ちょ、ちょっと待って。
話が締めの方向に向かってる。
「う、敬郷先輩、わたしまだ、聞きたいことが……!」
みるみるうちに遠ざかっていく弓道場。
手を振ってくれていた敬郷先輩の姿も見えなくなったとき、愔俐先輩が息を吐き出した。
手間をかけさせやがって、という意味だと思ったわたしは小さくなるばかり。
「お、怒ってます……?」
「心配している」
「え」
すると考えていたことが伝わったのか、きちんと訂正を入れてきた。
「あいつらが、心配している。とくに悠が」
「あ、ああ……そういうこと」
悠とか、嵐とか、敬郷とか。
愔俐先輩って意外とみんなのこと名前で呼ぶよね。
奈良町先輩のことは奈良町呼びだけど。
わたしのことは一切、呼ばないけど。



