ずっと気を張っていたであろう人の、初めて出したような弱った声。
ボロボロで、傷を癒やすことすらできない。
それは手負いの獣だった。
「はい…、はい、桃です。わたしは桃ですよ、奈良町せんぱい。わたしは先輩を傷つけたりしない。ここに、先輩を傷つける人はいません」
一瞬、愔俐先輩の顔が浮かぶ。
あの人もあの人だ。
もう少し素直になったらいいのに。
わたしから見ても相当わかりにくいのに、いつも言い合ってる奈良町先輩にわかるはずがない。
あの人だって、奈良町先輩を気にかけてるということを。
最近は奈良町先輩の姿が見えなかったからか。
知るはずがないのに、わたしに部屋に入ってきたとき5回に2回は言ってたもん。
────"奈良町はどこにいる"って。
ちゃんと、
本人の前では口にしない名前まで呼んじゃって。



