言っちゃいけないことを言った自覚はある。
奈良町先輩が物理的にわたしの首を絞めているのだとしたら、わたしは精神的に奈良町先輩の首を絞めた。
……そうでもしないと、見てくれないと思ったから。
それでも、やっぱり、目は合わなかった。
「っ、せんぱい……奈良町先輩、ちゃんとわたしを見てください。わたしも、先輩のこと見てます。だから甲斐田桃を見てください。いまあなたの目の前にいるのは、甲斐田桃です。いまあなたと話しているのは、他の誰でもない、甲斐田桃なんです」
わたしの想いが伝わったのか、はたまたうるせえなこいつと思ったからか。
それともただ顔を上げてみただけかもしれない。
とにかく、ようやく、目が合った。
「……"甲斐田桃"」
まるで言われたことを反芻しているだけ、みたい。
それでも辛抱強く待っていたら、ふと、かちりと歯車がかみ合うように。
ほんとうの意味で目があった気がした。
──────瞬間、



