「あの、奈良町先輩……」
呼びかけると、ちらりとこちらを見下ろして。
「……好きにしろ」
「!! やっ」
「ただ」
喜びのバンザイしようとしたら、冷ややかな目を向けられる。
「そのきったねえ手を早くどうにかしやがれ」
「え? …うわーんアイスが溶けてる!!」
すっかり存在を忘れていたアイスを半分近くだめにしてしまった。
さもないと殺す、と本気のトーンで言われた。
シメる、で済んだ三栗くんの罪よりずっと重い。
奈良町先輩のわたしに対する態度は、決して優しくはない。
それでもわたしの心の中はさっきよりも晴れやかになっていた。
「あ、しまった時間が!」
「あ?」
「やばいやばい、走ってください奈良町先輩っ」
返事がないので振り返ってみると、奈良町先輩はつっ立ってこちらを見ていた。
わたしは戻って、だらりと下がったままのその手を取った。
「な、」
「さっきちゃんと洗いましたからっ、汚くないですよ!」
もしかしたら、ひんやりしてるかもしれないけど。
奈良町先輩の手は意外とあったかかった。
ちぐはぐな体温が溶けあうように浸透していく。
先輩がどんな表情をしてたのかはわからない。
だけど、その手が振りはらわれなかったことに気づいたのは、目的地についてしばらくしてからだった。



