もちろん警戒心を完全にほどくわけじゃない。
わたしだって命がかかっているのだから、気くらいは張る。
手放しで、安心して接することは難しい。
だけどこのままじゃ、たぶん、だめなんだ。
ケーキとフォークはわかり合えないからと最初から諦めてしまえば、大切なものまで手から取りこぼしてしまうかもしれない。
その大切なものが何かは、いまはまだわからないけど。
それでも、そうなることだけは避けたかった。
「お礼はします。なんでもします。死ぬ以外は、なんでもします。たぶん。なので、わたしに先輩たちのことを教えてください!」
「だから、なんで俺が」
「先生してるじゃないですか」
塾の講師、小学生を相手に。
それといくつかバイトを掛け持ちして。
昨日だってきっと遅くまで働いていたんだろう。
バイト明けで疲れているだろうに、こうして一緒に街に出てくれた奈良町先輩は、やっぱりそこまで悪い人じゃないんだと思う。
「てめえなんでそれ知ってんだ」
「三栗くんが教えてくれました」
苦虫を噛みつぶしたような顔。
ごめん三栗くん、内緒ねって約束したのに言っちゃった。
奈良町先輩、あいつまじで一回シメるとか言ってる、ほんとごめん。



