「……ごめんなさい」
芽野くんが帰ってきたらすぐに謝ろう。
俯いてアイスを食べていると、面倒くさそうに「これくらいで泣いてんじゃねえよ」と言われたので考えを止めて、顔をあげた。
「じゃ、あの、奈良町先輩」
「ぴくりとも泣いてねえ」
「先輩たちのこと、わたしに教えてくださいよ。なにが好きで、なにが嫌いだとか。これをされたら嬉しいとか、嫌だとか」
奈良町先輩が、は?という顔をする。
「わたしが知ってるのは、せいぜいが世間一般に広まってる知識くらいです。知ろうとも、思わなかったし。でもいまは違います……わたしが無知なせいで嫌な思い、してほしくないから」
偽善ぶるな、か。
余計なことするな、か。
予想していた言葉はどちらもハズレだった。
なんで俺が、という、心底わからないといった表情。
「なに企んでやがんだ、てめえは……」
「だからなにも企んでないですって!」
「そんなわけねえだろ。お前みてぇな女は──」
「先輩!」
奈良町先輩の腕をぐっと引く。
縮まった距離、目と鼻の先まで迫った顔。
近くにいた男の人たちが冷やかすような声をあげた。
「わたしは……っ、」
続けようと思った言葉が一瞬にして飛んでいく。
至近距離でかち合った瞳には、怒りなんて、なかった。
いつも怒っていると思っていた。
だけどちがう、ちがった。
この人を、
奈良町先輩を支配していたのは──……
「……お前、怖くねえのか」
ひと呼吸置いて、怖いですよ、と答える。
「それは抗えない本能ですから。だけど信じたい。わたしは、先輩たちを、信じたい」



