それどころじゃない。
わたしを食べたら、この人は立派な殺人者となる。
「捕まってまで、わたしなんかの味を知りたいですか?」
「……言いたいことはそれだけか?」
「っ、」
温度を一切感じない平坦な声色。
こちらを静かに見下ろす切れ長の瞳。
愔俐先輩が、こちらに手を伸ばしてくる──
「わ、わたしはっ!」
ぎゅっと思わず目をつぶる。
「わたしはただのケーキじゃない!」
これが最後の砦だった。
必死に言葉を紡ぐ。
「わたしは、食べなくてもいいんです。食べなくても、満足するようにできているんです……!」
殺されないように、食べられてしまわないように。
わたしはまだ死にたくない。
死にたくなかった。
「むしろ、食べないほうがお得です、いつまでも、永遠に、味わえます……っ、だから──」
びくり、と。
言葉が止まったのは、今度こそ首筋に走った痛みのせい。
本能からか、ぶわっと全身が粟立った。



