まあ、食ってしまいたいくらいには。



静寂が辺りを包む。

先に口をひらいたのは愔俐先輩だった。


「その反応」と目を細めて続ける。



「自分がケーキだということを知っているな」

「っ、し、知ってますよ。悪いですか?」



そう、わたしは“ケーキ”だ。

生まれたときからわたしは、ケーキだった。


知ったのもつい最近じゃない。


ずっと小さい頃に、わたしは自分の体が美味しくできていることを────分からされている。




「ここまで生き残っているケーキもめずらしい。よっぽど不味いのか?」

「そ、んなの……言うわけないでしょ」



はやく逃げなきゃ。

それなのに、力の抜けた腰は、どれだけ力を入れてもうまく入らない。

こんなところで死にたくない。




「あ、愔俐先輩こそ」


時間を稼ごうと思った。



大丈夫、いままでもこうやってフォークから逃げてきたんだから。だから、大丈夫。落ち着いて……。




「フォークだってこと、知られたらまずいですよね?わたし、タダでは食べられませんよ。大声あげますから。人、呼びますから」



いいんですか?とあえてゆっくり続ける。


震える声と恐怖を押し殺すように。




「フォークであることを知られると、“予備殺人者”としてみんなに恐れられますよ」