『京平だって、一人の人間だもん』


そりゃ、いくつも顔があるし、感情だってあるでしょ。

仮に、多重人格だとしても、コンプレックスだらけだとしても、人間である以上仕方ない。

そもそも、悩まない人なんていないんだからさ。

京平もきっと、今までに何か辛いことがあって生きてるんだよね。


そうでしょ?と何でもないみたいに返したら、京平は驚いたように私を見てきた。

信じられない、と目が物語っていたけど。

やがて、仕方なさげに口元を緩めた。


「何それ…、変なの。

 ほんと、澪ちゃんって…」


言葉は続かなかったけど、どうせ“変な子”
とか思ってるんだろうな、と予測した。


どこか切なく、優しく笑う京平を他所に、中庭の時計を見上げる。


「…あっ!

 やばっ、授業遅れる!

 じゃあね!」


次の授業は何だったかな、と考えながら颯爽と京平の前から去った。

京平は、私を見送って、何かを言っていた。


ー「そんなこと言ってくれるのは、澪ちゃんくらいだよ」



ー…京平、“更生ルート”へ一歩踏み出す。