「皐月、お疲れ。奥のほうで休んでて。」

 めいを心配そうに見てくれる成生さんと視線がぶつかり、そう言われる。

 無力な自分がいたら、きっと邪魔だろうな……。

 そう思うのは悲しいけど、本当の事だからどうにもできない。

 大人しく、魔力を回復させておこう。

 校舎の奥のほうに入り、息を吐いてもう一度目の前に視線を移す。

 禍々しい色で渦を描いている、真っ黒な物体。

 これの正体は殺戮魔術だと、分かっている。

 でも今召喚された理由が、見当もつかない。

 誰が何のために仕掛けたのかも、何も分からない。

 だけど、何だか嫌な予感がする。

 僕たち魔族は五感に鋭いから、予感や気配は嫌でも感じ取る事がある。

 何か不吉な予感……どうか当たらないで。

 心の中で強く願い、両手を握り合わせる。

 ……その時、こんな声が周りに響いた。

「私の魔力を狙ってきているんでしょう?だからこれ以上、他の人を傷つけないでください。」

 その一瞬で、周りのざわめきを消し去ってしまう。