「お父様が…?」

「はい、フローラお嬢様。それではご準備できましたら執務室へお願いいたします」

それだけ言い残し、執事は再度お辞儀すると部屋を出て行ってしまう。

い、嫌な予感がするわ。
だって、お父様の急な呼び出しはろくなことがないもの…。

それはあの日、勝手に婚約者を決めて私に伝えてきた日も然りだったから。

「フローラ、まさか…ロイ・シェラードに無礼な発言をしたことが、公爵様にバレたんじゃない?」

ミリアが若干、心配そうに声をかけてくる。

その言葉に、私はうーんと考え込んだ。

確かに…ミリアの言うことは一理ある。

『…私は嫌です。絶対に婚約破棄してみせますから…!!』

ロイ・シェラード公爵にそう言い放ち、失礼な発言をしたのは事実。

「そうかもね…。とりあえず無視もできないし会いに行ってくるわ」

小さくため息をつくと、私はソッと自分の部屋の扉に手をかけた。

「健闘を祈るわ…!」

そんなミリアの声援を背中に受け、私は重い足を引きづるように執務室へ続く廊下を歩き出す。