「それでは…ハリス様と呼ばせていただきますね。こちらもぜひ"フローラ"と名前で呼んでくださいませ」
"お義兄様"なんて口が裂けても呼べるはずもなく、とりあえず彼の要望通り名前呼びをすることにする。
穏便に、こちらの非になるような行動は避けつつ婚約破棄に持ち込まなければ。
後々、シェラード公爵家から因縁をつけられでもしたらたまったもんじゃない。
同じ公爵家同士、できれば仲良くしたいもの。私が女公爵になった暁には…ね。
そんな私の計画を知る由もないシェラード公爵は「嬉しいよ。それじゃ、私もフローラと呼ばせてもらおう」と嬉しそうだ。
「そういえば、ロイはまだ来てないのか?全く婚約者を待たせるなんてアイツは礼儀がなってないな…。すぐ、向かうように言うからもう少し待っていてくれ。それじゃ、フローラ。また会えるのを楽しみにしてるよ」
最後にフッと微笑んだハリスは、優雅に一礼すると部屋を出て行く。
私は「えぇ、私もですわ」と声をかけその背中を見送った。



