「いやいや、こちらこそ…前触れもなしに訪ねてしまって申し訳ない。本当は仕事で今日はキャンベル公爵令嬢には、会えない予定だったんだけど、予定していた会議が早く済んでね。ちょっと時間ができたから、急いでやって来たと言うわけ」
ニコッと素敵な笑みを浮かべるハリス様に私もつられて笑顔を返す。
なるほど…。近くで見ると確かにカッコいいわ。
サラッとなびく、シェラード家特有の漆黒の髪を後ろで緩く括り、気品のある佇まいは遠目からでも目を引く。
若いご令嬢達の間で噂になるのも納得だ。
「お忙しい中、ありがとうございます。シェラード公爵様にお会いできて光栄ですわ」
当たり障りない言葉を選び、ふふっと上品に微笑むと。
「シェラード公爵なんて堅苦しい呼び方しないで、お義兄様とかハリスとか名前で呼んでくれると嬉しいな。私達は家族になるのだから、ね?」
そんな返しをしてくるものだから内心、返答に困ってしまった。
彼の気遣いは嬉しいが、私自身は本当に婚約する気はサラサラないのだから…。



