「なんだか、相手の人が気の毒に思えてきたわ」

確かにアンの言うことも一理あるけど、私だって"引きこもり公爵"なんてゴメンだ。

「…アンは、相手が誰か知らないからそんなこと言えるのよ。こっちだって被害者みたいなものなんだから」

私がため息混じりにそう言うと。

「何?かなり歳上の中年バツイチ子爵とか!?」

前のめりになり、なぜかワクワクした表情を浮かべる彼女。

なんなの、その具体的な設定…。

「まぁ…そんな感じね」

とりあえず適当に相槌を打ち、そう答えておく私。

「そっか〜。そりゃ嫌よね…。フロイドみたいな美人でもそう簡単に上位貴族との縁談ってないのかしら?」

「タイミングってあるしね」

「そうよね…!うん、私、応援するわ…!フロイドの婚約破棄がうまくいくように祈ってるわね!!もし、何かあれば手伝うから言ってちょうだい」

最終的には、婚約破棄を応援してくれる形になったアンに対して「ありがとう。それじゃ、勤務時間の件、よろしくね」と声をかけ、私は事務所を後にしたのだった――。