声をあげようとした私を,男はいとも簡単に捕まえて。



「……ぁ,ぅ……!」



右腕を捻りあげた。

悲鳴が細く溢れていく。

痛みをこらえ,ようやく片目で相手を捉えた。

父のチームの人間とも考えたけど,護衛を私がストーカーと勘違いしてしまうレベルの人達だ。

こんな暗殺者の様な技術は無いだろうし,何よりこんな乱暴をする理由もない。



「夜,雅……の」

「夜雅様,だ娘。命が惜しければな」



憎悪でも向けるような声。

初めて聞いたその声は,ベルトゥスより少し上位の年齢に思えた。

唯一見える瞳の色は,深い茶色。

力を強められ,私の手首は地面に縫い付けられる。

痛みに喘ぐ私の首を,残った片手で男は躊躇無く絞めた。

この人,やっぱり夜雅の……

だめ,連れていかれる。

そう危機感を正しく抱いた時には,もう。

零れる唾液と共に,私の意識は無かった。

私,死んだのかしら……

蘭,華……

ごめんなさい,ベルトゥス……