コンコンと,ドアを叩く音がする。
忘れ物?
財布でも取りに来たのか,さっきの今にしては戻ってくるのが早い。
私は上体を少し上げて,返事をした。
「ベルトゥス?」
ベルトゥスはいつも,どんなに短い外出でもノックをしてくれる。
私を怖がらせないように,万一着替えなんてしてないように。
だから聞こえやすいような大きなノックなのに。
たった今響いたノックは控えめだった。
気まずく感じているのかもしれない。
私は違和感もそのまま受け入れ,無防備に待った。
考えるように,私の返答を数秒で飲み込んだドアの前の人物。
首をかしげた私は,自らドアに近づく。
同時に,不自然なほど音を最小限に抑えて,ドアが開いた。
細身で,全身黒色の男。
いかにもな怪しい動きの数々に,ベルトゥスでも蘭華でもない所からの人間だと分かる。
あまりの衝撃に身体がよろけ,息が詰まる。
……誰?!