元々そんな風に呼ばれるほど,歳も離れていなかったけど……

今そう呼ばれないことから導かれる事実に,泣きそうになってしまった。

ベルトゥスに至近距離で覗き込まれ,濡れた髪が私にかかる。

真っ直ぐ私を射ぬく瞳に囚われて,気を抜けば一直線に唇を奪われる予感がした。

私は,ベルトゥスが南の支配者なんて大きな権力をもつ者だとは思えないほどよくして貰っている自覚がある。

でも,それでも。



「ごめんなさい……ベルトゥス。あなたがどんなつもりでそう言っているのだとしても……ううん,私は。蘭華の事が大好きなの。命を懸けても構わないと思えたほど,あいしてる」



言い回しに若干の奇妙さがあるのは分かってた。

だけど,それが私の本心。

私があの時死んでしまったのは,泣いていたのが蘭華だったのは。

私が蘭華に向けられた銃弾を受け,身代わりになったからだった。

私は蘭華の為なら,命も尊厳も人権も,なんだって差し出せる。

私がこんな風にベルトゥスの誘いを断ったら,ベルトゥスは怒るかしら?

ずっと求められる側だったはずだ。

ビジュアルも中身も,申し分ないどころじゃない人だもの。

ベルトゥスの普段の自信には,必ず根拠がある。