「だが,ただで返してやるつもりもねぇ。その前に確認したいことがある」
「ベルトゥス……?」
溢れそうな涙を掬うように。
シャワーを浴びたばかりで,古びた布に水を滴らせるベルトゥスが,椅子に座る私を囲うように片手を机に置いた。
耐久度の高くない木製の机が,ぎしっと危ない音を立てる。
「やっぱり,綺麗だよなああんた」
「なっなに……ベルトゥス……」
「今名前呼ぶのはだめだろ。凛々彩,あんたは蘭華のとこに帰りたい?」
ベルトゥスは,私の茶髪に指を通して口付けた。
ベルトゥスの言動1つ1つが分からなくて,こく……と唾を飲む。
何を考えているの……?
「冷静で,人情深くて,家庭的……その上美人で,体つきもいい」
「ベ,ベルトゥスってば……ずっとこんなとこに閉じ込められてるからおかしくなっちゃったの?!」
これが迫られるってことなのは,流石に察することが出来た。
だけど,どうして……
ベルトゥスは,女なら誰でも大事にすると言っていたけど。
それは誰でもいいと言うわけじゃないはずなのに。
それも,どうして蘭華が来るかもしれない今なの?
「凛々彩,状況も何もかも一旦忘れたとしたら。俺と蘭華,どっちに行きたい? 俺なら一生守ってやれるし,今すぐにでも嫁にしてやれる」
ねえ,ベルトゥス。
もう,私のこと嬢ちゃんなんて言わないのね。



