「ふむ。そろそろ蘭華が来る頃じゃねぇか?」
「え?」
聞き違えたかと,いくつか夜を越えた日に思った。
そりゃあ,いつまでも蘭華の目を盗んで生活なんて無理だとは分かってたけど。
今見つかってしまえば,きっとただで連れ戻される。
それじゃあ,私は誰の事も守れない。
もっと情報が欲しい。
出来ることを理解して,探したい。
その為には,私はベルトゥスといた方がいい気がしてる。
なのに,もうすぐ見つかるとなっても,ベルトゥスは焦っていないようだった。
「私……どうしたらいいの?」
違う,考えなきゃ。
ベルトゥスが,私にどうして欲しいのか。
「なにもしなくていい」
「そんな……っ」
「なにもしないってのは難しいだろ? 余計なことでもしてしまうのが俺達さ。でも,今凛々彩に出来ることはなにもねぇ。ただ動いていくのを待て」
……そうだ,ベルトゥスの言う通り。
彼が正しい。
この騒動の主役は,蘭華にベルトゥスに夜雅。
ただの1市民,たまたま良くない意味で名前が通っているだけなのが私。
宝石と小石の真ん中で,夜雅がほんの少し珍しい形をしていた石に,戯れに手を出そうとしているだけなんだ。
だから,私に出来ることと言えば,傍観して考え続けることだけ。
だから,今は……まだ。
蘭華の命は守れた私。
だけど,結局泣かせることしか出来なかった私。
あの時私は,蘭華の涙を拭い,慰めの言葉をかける事すら出来なかった。
もっと探さなくちゃ。
その為に出来ることが,待つことなんだ。



