蘭華が動けない。

たったそれだけで,私を抱えながらもベルトゥスは見事に逃げおおせてしまう。

どんな体力なのか,1日以上かけて,私は遠く南の土地まで,ベルトゥスに運ばれた。

着いた頃にはもう,また夕日が傾いている。



「にしても度胸あんな,凛々彩。あんな風に蘭華のふいをつくなんて」



それは,誤解だわ。

1度乾いた喉を飲み込んでベルトゥスを見る。

以外にもちゃんと私の目を見ていたベルトゥスの綺麗な瞳に,私は弱く笑った。



「そんなつもりでやったんじゃない。私が……ただ私が寂しくて。だけど別れの挨拶まで口にしたら,逃がして貰えないと思ったのよ」



ベルトゥスはきっと,蘭華と南の土地,ひいては島そのものを守るため,取り敢えず私を夜雅に引き渡してくれる。

どんな扱いを受けるか,どんな最期を向かえるか分かったもんじゃないけど,蘭華の目に触れなければそれでいい。



「別れ? なんか勘違いしてねぇか凛々彩。俺はお前を捨て駒にするために拐ったんじゃねえ」

「……え?」