「嬢ちゃんをどうするつもりだ。大人しく渡して引き下がって貰うのか? それが賢明だな,そっちもこっちもあいつとドンパチすらには準備が足りねぇ」

「まさか。あいつに渡すなんて,僕は利益になるとは思えない。凛々彩はもっと有効なところに回す」



そんなわけ,ないよ蘭華。

自分の言ってること,分かってる?

私一人で土地に住む全ての人間を守れるのに,不要に面倒な労力を割かずに済むのに。

私1人手元に置く方が,価値があるって言ってる。



「冷静になれ,蘭華」

「僕は至って冷静だよ,ベルトゥス。いつから君は他人の言うことをさらりと信じるようになったのかな。あいつは僕らと同じこちら側だろ?」



素直に引くとは思えない。

その気持ちは分からなくもないけれど,蘭華はもっと本心では別のものに囚われているようだった。

それは口を閉じる私にも,片方だけ器用に眉をあげるベルトゥスにも伝わる。

私と同じで冷静なベルトゥスは,呆れたように眉を下げた。



「今使えねぇんじゃ,嬢ちゃんに見合う取引先は一生見つからねぇな」

「それならそれでいいさ,ベルトゥス。教えてくれてありがとう,君のとこにはまた人をやるよ」

「素直になれ,蘭華」



ベルトゥスの眼差しに,蘭華は動きを止めた。



「結局手放すと心で思ってるうちは,嬢ちゃんを守れねぇ。だから……俺はどうだ? 悪いようにはしねぇ,俺は凛々彩を気に入ったから,欲しいと思った」



簡単だろ? と目の前の口が弧を描く。



「お前にはやらない」

「何故だ? お前が望むものはやるし,凛々彩1人で侵略しないことも誓う。口約束の今よりずっと強くな。嬢ちゃんも悪くない話だと思うだろ?」



悪くない。

それは全くもってその通りだった。



「そうね,変なとこで雑に扱われるより,ずっとましなのかもしれない」