ぽりぽりと,本当に困ったようにベルトゥスが頭をかく。
「入った途端に異様だったよ。石碑ぎりぎりに住む俺の住人から報告があった通り,意識があるのかも分からないようなやつが殴り合いのケンカしててな。お前も知ってるだろ?」
「そうだね,関与しないとは言え,様子くらいは偵察させてるよ」
「中央まで足を運べば,直ぐに分かった。あいつらはたった1つを求めて,奪い合ってたんだよ。"これ"が,至るところに裸で転がってやがる」
ベルトゥスが取り出したのは,小さな袋。
その中にはお菓子のようなものが入っていた。
「らむね?」
「そう見えるだろ,凛々彩。でもこいつは,口にしたやつの脳をぶっこわして,これ以外見えないようにしちまう代物らしい」
そんなものが平然と,落ちている?
日常的に奪い合う土地?
それをそのまま眺めているような男が,私を求めてる?
血液が冷えて失われていくような感覚がした。
どうして……
「そしてこれはとっておき。たまたまその辺を彷徨いてたやつが口にしてたんだが……夜雅は,拠点から近いからと言う理由で俺のとこではなく,お前のとこをぶっ壊すつもりらしい」
夜雅は滅多に表へは出てこない。
その顔を知っているのは,ベルトゥスと蘭華だけと言われるほど。



