「髪くらい僕が結ってあげるし,服だって脱がせて着せかえてあげることも出来るよ? サムよりずっと優秀じゃない?」

「もっもういいわ! 自分でやるから……!」



どうしてそんなにサムに拘るの?

その言葉を聞いて,私は服を選びながら思った。

水色と白のワンピースを手に取り,袖を通した時,襖の前で聞きなれた声がする。



「凛々彩,入るよ」

「! アンナ!」



今頃洗濯をしてる時間なのに,アンナが尋ねてきていた。



「どうしたの,アンナ」

「蘭坊っちゃんに言われてね。デートなんだとか。そのワンピースもよく似合ってるよ,楽しんでおいで」

「でも」

「ほらほら,髪の毛くらいやったげる。毎日毎日手伝って貰ってるからね。それから,はいこれ」



丸い小さな銀色の缶。

渡されたそれを見て,私はじわりと目を見開いた。



「これ……でも,蘭華に変に思われないかしら」

「それくらいでいいじゃないか。凛々彩は蘭坊っちゃんの事が好きなんだろう?」

「……ええ」



母親のような,叔母のような,お姉さんのような。

例えこれが前世からのものだとしても,嘘をつくことは出来なかった。

外の蘭華に聞こえないように,2人声を落として。

私は頬をじわりと染め上げる。