気を散らしてる場合じゃない。

ベルトゥス·ボーン,南の土地の支配者である彼は,自分の世界で生きている。

自分を偽らず,自分に正直に。

そんなベルトゥスがコンタクトを図ってきたのは,例の如く突然の事だった。

たまに訳もなく親交を持とうと接触してくるが,伝言を寄越すのは余程面倒なことが起きた時だけ。

寝られない理由がまた1つ増える予感がした。

ただでさえ人前で寝られないのに,無理に起きる理由が出来るのは勘弁して欲しい。

迅速な対処のためにまず必要なのは,情報だ。



「『不気味じゃなかったことなんて1度もないが,とうとう西がきな臭い』だそうです」

「西?」



この土地は,4つに分かれている。

初代の支配者が立てた石碑を目印に,バームクーヘン状に東西南と区分され,中央には円形に教会の敷地があり,何の害にもならないそこは3つのどこにも属さない。

俺と対等な立場にあるのは,ざっくり挙げれば教会の長·南のベルトゥス·西の夜雅(よるが)だけ。

俺達は平穏を壊さぬため,パワーバランスを計り,それぞれのすることに口を出さないと取り決めている。

定期的に行われる交流は,忘れていないぞと互いに確認する場だった。

各地の支配権は,血縁や信頼の置けるものに大抵譲られるものだけど……

今の西は少し特殊。

殆どの場合潰れていく支配権を狙う物が既存の組織をぶち壊し,無理やりトップに居座っているのだ。

それも,全て年端も行かなかった夜雅1人で行ったと言うのだから油断できない。

それでも僕達との取り決めには従うから,今まで潰れずに生きてきた。

力がたったの二分なんて,後でややこしいというのもある。

それが今になってきな臭い?

あの夜雅が?

ただでさえあそこは治安が最悪だと聞いている。

あれ以上何が起こるのか。

夜雅……

自分すらどうでもいいと全てを見下して,愉しんでいるような男。

思い立てば,大胆不敵に笑みを浮かべ,何だってして見せる気すらさせる。



「……ラム,良くやった。悪いけど,少し休んだら直ぐ戻ってくれ。俺が行くと伝えろ」

「では,今すぐ」

「いや,休め。……1時間だ」

「……りょうかい」



不満げだけどね,ラム。

君は僕の右腕なんだから,こんな時に潰れて貰っちゃ困るんだよ。

仕事だけでなく,休息だって僕の分を兼ねてるんだ。