「ひゃぁッ」



蘭華が私を,サムから取り上げるように抱き抱える。

姫抱きの様にされて,驚いた私は同じ顔で見上げてくるサムと目が合った。



「ら,らん?」

「全く。君は本当に予測できないね。思ってもないところで,思っても無いことをしている」

囚われのお姫様は,どうやらとんだお転婆みたいだ。



ふっと妖艶に,蘭華は笑う。

その息の抜ける音に,私はきゅっと唇を噛んだ。

蘭華の首に回した手が,じくじくと熱くなっていく。



「凛々彩,手伝いなんてしなくても良いんだよ。君はここで,取引材料にされるまで守られていればいい」

「蘭坊っちゃん,その言い方は…」

「残念だけどね,アンナ。凛々彩はその為にここにいるんだよ」



蘭華は肩をすくめて,私を見た。



「そんだけお気に召しているくせに,よくそんなことが言えたもんだよ。なら凛々彩を下ろしてあげて下さいな」

「いいのよ,アンナ。それから,蘭華。これは私から言い出したことで,私がしたくてしていることよ」

「そう?」



蘭華はそっと,私の足を地面につける。

私は蘭華の肩に手を添えて,バランスを取りながら蘭華を振り返った。



「本当。それに,価値は自分から作っていくものだもの。その内お屋敷の皆から手放したくないと言わせてみせるわ…!」